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Clavia Nord Rack(初代)

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「Nord Rack(初代)」はスウェーデンClavia DMI ABが1995年にリリースしたバーチャル・アナログ・シンセサイザー「Nord Lead(初代)」の、鍵盤なしバージョンである。テーブルトップとして使うこともできるし、ラックマウントして使うこともできる。ラックマウントした時の高さは4Uだが、上にケーブルが突き出るため、上に余白を設けなければならないかもしれない。

Nord Lead/Rackは4ボイスポリフォニックで、音色メモリーは、ユーザープログラム40、ファクトリープログラム59(ここまでで1~99)、ファクトリーパフォーマンス100である。この状態だと、できることがかなり限定される。拡張キットを入れると、12ボイスポリフォニックになり、背面にPCMCIAカードのスロットができる。PCMCIAカードスロットにはSRAMカードを挿入でき、それをメモリー領域として使える。中古品購入時は、背面にカードスロットがちゃんとあるかどうかを確かめるとよいだろう。

現在のシンセサイザーはオペレーティングシステム(OS、ファームウエアと呼ぶこともある)がフラッシュメモリーに書かれていて、ファイルをダウンロードしてOSを更新できることが多い。Nord Lead/RackはEEPROMチップにOSが書かれており、更新するにはチップを挿し換えるしかない。最終バージョンは2.70だが、現在では供給されていない。上の写真に示した私のNord Rackはバージョン1.6で、更新は難しかろう。マニュアルは新しいバージョンのものに差し替えられており、旧バージョンを使っていると、マニュアル上の記述が使えないことも多い。

Nord Lead/Rackはヒット商品となり、後継製品としてNord Lead 2、Nord Lead 3、Nord Lead 2x、Nord Lead 4、Nord Lead A1が作られた。これらは、長い期間にわたってClaviaの経営の柱であった。

Nord Lead/Rackがヒットした理由はいくつかある。1990年代は日本製のデジタル・シンセサイザーの全盛期であったが、新製品が出るたびに操作すべきパラメーターが増加し、LCD(液晶ディスプレイ)をのぞき込んでパラメーターを探す行為が難しくなっていた。Nord Lead/Rackはパラメーターの数が抑えられ、つまみとボタンで主要なパラメーターにアクセスできる。操作のダイレクト感が、支持を集めた理由の第一だろう。

音も素晴らしい。PCM方式のシンセで忘れられていた、PWM(パルス幅変調)、オシレーターシンクができる。フィルターは12dB/Octaveと24dB/OctaveのLPF(Low Pass Filter)以外に、HPF(High Pass Filter)、BPF(Band Pass Filter)がある。ベロシティはフィルターエンベロープにかけるだけでも効きが良いが、モーフィングのソースとしても使える。2つのオシレーターでFM(Frequency Modulation)変調ができる。LFO1でランダム波形を選んでRateを上げてノイズを作り、フィルターを変調できる。硬質で冷たい音質は、Prophet-5に似ているという評もある。バーチャル・アナログというジャンルを確立したのは、Nord Lead/Rackの功績と言える。

Nord Lead/Rackは前述のように後継製品が多く作られ、後継製品はより多くの機能を持つ。ただ、機能を増やしたことで、初代の持つ操作のダイレクト感が失われた。初代には初代の良さがある。

参考リンク

ファクトリー・サウンド

サウンドコメント
01 Sawbrass

ファクトリープログラム1番「Sawbrass」を弾いたもの。ヤマハSPX2000に直結して「MONO DELAY」をかけた。手弾き無修正。最後の音では、サスティンペダルを踏んで音を伸ばし、モジュレーションホイールを上下させた。

01 Sawbrass

上と同じ音だが、録音した日が違う。エフェクトはt.c.electronic FireworXの「Vox Reverb 1」。鋸歯状波のブラスそのままの音で、モジュレーションホイールがビブラートではなくフィルターにかかっている。nord rackのペダル端子にローランドのEV-5を接続し、足でモジュレーションホイールを上げられるようにして弾いた。最後の伸ばしのワウワウ言っているのがそれである。鍵盤は3オクターブしかないKORG wavestate。録音して、nord rackのフロアノイズの低さに驚いた。マイナス80dBを超える。

02 Velocity strings

ストリングスとはいっても、ふわーっとした音ではないのが通である。この音色もモジュレーションホイールはフィルターにかかっている。

03 Resonance pad

ペダル(モジュレーションホイールと同じ)を引き切った状態で弾き始め、徐々に踏み込んだ。シュワシュワしたフィルターである。Prophet-5風なのかもしれない。Prophet-5を持っているわけではないので自信はない。ただ、nord rackの音はクリアで揺れがないので、その点がアナログっぽくないのかもしれない。

04 Hard string pad

オシレーターシンクを使った音。nord rackのシンクは、オシレータ2のピッチがオシレータ1に同期し、オシレータ2のピッチをエンベロープジェネレーターで揺らすとオシレータ2がギュイーンと鳴る。どこがstringなのか、どこがpadなのか、とは思う。90年代は用語の使い方が違ったのかもしれない。

05 Resonance fade pad

シュワシュワ言ってますなぁ。Prophet-5とかJUPITER-8のような高額アナログポリシンセを連想させる音だと思う。いいかげんなところがないのでデジタルっぽくも聞こえる。アナログっぽくデジタルっぽい、というのは、新境地を開いたと言えるかも。

06 Portamento quints

どこがポルタメントなんだろうかと後で思ってPORTAMENTOつまみをひねってAUTOを切ったら、この録音とは違ういい感じの音だった。quintsというのは、Prophet-5を連想させようという意味だろうか。

07 A fifth pad

オシレーター2が5度上にセットされた音。ポルタメントが少しかかっているようだ。

08 Pulse pad with FM

モジュレーションホイールを上げるとFM amountが上がる。エクスプレッションペダルでいい感じの上げ具合を探すのは難しく、うまくできていない。Nord RackのFM(Frequency Modulation)は、1がキャリアで2がモジュレータだ。この音色ではオシレーターが両方ともパルス波で、DX7の正弦波とは雰囲気がだいぶ違う。オシレーターを三角波にするとDX7的になる。マニュアルには「For classic FM sounds, use triangle wave on both oscillators.」と記されている。

09 Weather bass

私のバンドでWeather Reportのコピーをした時、最初にやった曲はBirdlandで、次がBlack Marketだった。シンセベースのための曲だったなぁ、と思う。

10 Lead saw solo

この音色はUNISONがオンになっている。OUT MODEを「1: Mono / UNISON stereo」にしているのでステレオで広がる感じを味わえる。Unison Detuneは1~9まで設定できるがここでは5にしている。OUT MODEとUnison Detuneは音色ごとには設定できない、と思う。私が持っているNord Rackは12ボイスなので、ユニゾンにしても音切れをあまり気にしないで済む。

75 Wurz piano

ファクトリープログラムの1~10まで録音すればいいかと思って始めたのだが、バリエーションが乏しい気がして、後ろの方からも3音色録音した。Nord Rackは1~40が書き換え可能で41~99は書き換えができない。41~99の方が真のプリセットなのかもしれない。

81 Hamplafon

この音色ではモジュレーションホイールを上げるとフィルターにLFO1がかかる。いい感じの揺れだ。

83 Bell bar

モジュレーションホイールを上げるとFM AMTが上がり、木を叩いた音が徐々に金属に変わっていく。木を叩いた音は三角波とLPFだけでうまく作られているようで感心した。

自分で作ったサウンド

サウンドコメント
Saw1

鋸歯状波1個を出したリード音。ビブラートは、最初はモジュレーションホイールのデスティネーションをLFO1にしてかけたのだが、それだときつくかかり過ぎるし、LFO1を他のことに使えなくなってしまう。モーフをLFO2のAmtにかけたら、その方がほどよくかけられるし、LFO1を開けられるので、このやり方を自分の標準にした。エフェクトはt.c.electronic FireworXの「100 Prime Time Delay」。以下「Noise And Resonance」まで同じである。

Pulse1

上の鋸歯状波をパルス波にして、フィルターをいじったもの。先の音色はオクターブ24dBのローパスフィルターだったが、こちらでは12dBタイプにした。コルグやヤマハでは12dBタイプが主だったし、ARP Odysseyも白の初期型はそうだった。懐かしさ(私にとって、だが)を求める時に12dBフィルターを選ぶことが多い。けっこうパチンパチン言っているが弾いている時は気付かなかった。この音色はモードがポリのままでポルタメントをかけていない。モノやレガートにするとさらに様々な味を楽しめる。

Triangle1

初期の廉価なアナログシンセでは、鋸歯状波と矩形波は搭載していても、三角波は省略していることがけっこうあった。矩形波で似たような音色が作れるから、というのが理由だったのだろう。でもやっぱり、三角波も捨てがたい。

Noise And Resonance

Nord Rack初代では、オシレーター2個の音量は「Mix」つまみで調整できるるだけで、オシレーターの出力をゼロにすることはできない。オシレーター2でノイズを出し、レゾナンスを一杯に上げて作った音色。後段で歪みやすい。この録音でも気になる。この録音では使い忘れたが、モジュレーションホイールをLFO1にかけてLFO1の変調先をフィルターにして、ビブラートをかけられるようにした。

Kick1, Snare1, Closed Hi-hat1, and Crash Cymbal1

キックの音を作ったら面白かったので、それを4番に保存し、5番にスネア、6番にハイハット、7番にクラッシュを作って保存した。A~Dの各スロットでそれらを選び、MIDIチャンネル1~4にノートを送るとドラムスとして使える。Logicで4トラックを用意して打ち込んだ。時々違う音が発音されることがあるのが不気味だった。この録音ではリバーブなどのエフェクターを使わなかった。私のNord Rack 1.6では「Percussion Kits」機能は使えないが、それでもこんな音を出せることがわかって嬉しい。

Saw Detune Strings

鋸歯状波を2個出してデチューンをかけて作ったストリングス。モジュレーションホイールを上げるとLFO2のビブラートがかかるようにモーフの設定をしている。エクスプレッションペダルを踏み込むとモジュレーションホイールを上げるのと同じ効果が得られるので、両手で弾く時はペダルでビブラートをかけた。この録音の時にアマウントを上げたかどうか定かでないが、LFO1はランダムを選んでレイトを最大にしてノイズっぽいものを作り、それでフィルターを変調するというProphet-5的なセッティングにしている(下の写真)。アマウントを上げるとざらつきを付加できる。ここから11個の録音で使ったエフェクトはすべてt.c.electronic FireworXの「64 Vox Reverb 1」。

Saw Detune Strings (Unison On)

上と同じプログラムでユニゾンボタンをオンにし、ステレオ感を出したもの。システム設定にあるUnison Detuneは2にした。音色ごとに設定できないのはちょっと残念。

FM Cello

オシレーター1と2を三角波にし、周波数も同じにしてFM(Frequency Modulation、周波数変調)をかけて作ったセロ。最初はストリングスにしようと思っていたのだが、あまりうまくいかず、セロにした。右手だけで弾いているので、左手でモジュレーションホイールを上げてビブラートをかけた。

Saw Brass

鋸歯状波を使ったブラス。ビブラートのかけ過ぎでふぬけた感じになってしまった。この録音の時はオシレーター1のみを使っていたと思う。オシレーター2を1オクターブ下にセットしているので、それを混ぜると少し厚みが出る。

PWM Strings

PWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)を使ったストリングス。PWMだけでなく、オシレーター2個を使ったデチューンもほんの少しかけている。オシレーター2のFine tuneつまみを回すとさらに揺らせる。PWMは、高域に合わせて設定すると低域で強くなり過ぎることが多いのだが、Nord Rackではそうならない。個性がある。

PWM Strings (Unison On)

上の音色で、ユニゾンをオンにしたもの。Nord Rackのユニゾンは音数が減るし、レベルが大きくなって歪むし、ちょっと扱いにくい。でも、魅力的な機能ではある。

Flute

三角波または正弦波でフルート。原波形をただ出すだけでなく、何らかの形で汚すことが必要だ。今回は、オシレーター2でノイズを混ぜ、LFO1をランダムにして高速にしてノイズっぽいものを作り、それでフィルターを変調している。オシレーター2のノイズは、Semitonesつまみを回すとフィルターを変えられる。うまいことやるなぁ、と感心する。ベロシティはフィルターEGにかけているだけだが、効きが適切である。Nord Rackを作った人を尊敬する。

Clarinet

上のフルートとほぼ同じようにして作ったクラリネット。オシレーター1の波形は方形波(ほぼ)にしている。弾いている曲は、浜松市立蜆塚中学校歌。今でも月曜の朝礼で、君が代と校歌と退場用の行進曲を演奏しているのだろうか。

Oboe

クラリネットの方形波のパルス幅を小さくしていくとオーボエができる。ただ、今回は、チャルメラっぽさがなかなかうまく出なかった。もう少し調整すべきだったかもしれない。低い方はバスーンっぽく、高くなるにつれて、イングリッシュホルンになってオーボエになる。

Sync

20世紀の日本製アナログシンセで、オシレーターシンクの機能を持つものは少なかった。JUPITER-8、JUPITER-6、MKS-80、MONO/POLYだけだったと思う。そんなわけで、日本のシンセ少年であった私にとって、オシレーターシンクはなじみのないテクニックで、今でもうまくできる気はしない。Nord Rackではギュイーンがきれいにできる。キース・エマーソンもmoogモジュラーで使っていたのかもなぁ、と思う。

Voice

MOD ENVでオシレーター2のピッチをせり上げて人声を作ろうと思ったのだが、あまりうまくいかなかった。オシレーター1と混ぜて音頭にデチューン感を付けるにとどめた。

以上17音色のシステム・エクスクルーシブ・ファイルを収めたZIPファイルを下に示す。Nord Rackのグローバルチャンネルを16に設定して作成した。あなたのNord Lead/Rackに送信する際は、その点にご注意いただきたい。

ダウンロード - 20201115a_nordrackprograms.zip

ソング

ソングコメント
Happiness Never Chosen

ファクトリー・プリセット「5 Resonance fade pad」を弾いたもの。上の譜面が主題で、それを繰り返して終わればいいかなと思ったのだが、上の方にメロディらしきものをオーバーダビングしてしまった。また、モジュレーションホイールを操作してcc#1をオーバーダビングした。少しジャギーな気もするが、それがCPU能力の不足によるものなのかどうかはわからない。エフェクトは、SPX2000の「MONO DELAY」とt.c.electronic Reverb 4000の「Studio Spring」。さらに、dbx Quantumのイコライザーで、高域をけっこう削った。


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